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メモリーズ ~プロローグ~


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プロローグ

 

良く通った事のある道だった。

 

所々の明かりが道を灯し、あの頃の記憶が走馬灯のように蘇った。

この道を通るのは中学生以来な筈だ。

昔を思い出したかったから、俺は今ここにいるのか。

指定された通学路より、早く帰れたこの道が俺の中学時代の一番の相棒だった。

寝坊しても、走って行けば間に合ったし、遅刻したことは一度もなかった。

三年間、一度も学校から注意されなかったのは今となっては僥倖だった思う。

 

冷たい風が体に当たった。今ので家を出てから三回目だと思う。

あまり変わっていなかった。

少年時代、この道はもっと広かったように感じたが、今は狭く感じる。

只単に俺の体が大きくなったからか。

いつの時代も変わらず、存在できるのはモノの特権だ。

歳を重ねるのは生物だけ。

 

家を出たころにはまだ陽は道を照らしていたが今はすっかり、沈んでしまった。

三カ月に一度は実家に帰っている。

ずっとアパートにいると憂鬱になるからだ。

いや、楽が出来るからだが本音だ。

何もしなくても飯は出るし、電気代も節約出来る。

洗濯もやってくれる。まさに天国だ。

この辺は他の家よりも恵まれていると思う。

 

しかし、そんな環境にいる俺だが今、幸せかと訊かれれば疑問視が付く。

いや、不幸だ。

明後日もあの地獄に行かなくてはならないと思うと、今から憂鬱になる。

しかし、行かなくてはこの先、食っていけないし、辞めても今の自分の経験とスキルでは転職出来るかどうかも分からない。

このまま一生あそこに居座るしかないのか?

 

・・・・・いや、絶対にそれはない。

タイミングが合えば、直ぐにでも辞めてやる。

日々、同じ事の繰り返しに生きている実感がしない。

俺は一体、毎日何をやっているのだ?

本当に世の中の役に立っている仕事をしているのか?

毎日思っている事だ。

厭世にもなりかけている。

・・・・・誰かに言いたい。

誰かに頼りたい。

親でも良い。

しかし、もう泣訴できる歳でもないし、それは俺のちっぽけなプライドが拒む。

今年で二十四歳だ。

自分で何とかするしかない。

親にも迷惑は掛けられない。

 

「・・・・・やるしかないか」

 立ち止まり、そう呟いた。

 

「ハッ、クシュン」

 肌寒くなってきた。

まだ、四月だ。

夜はまだまだ冷え込む。

長袖一枚で外に出たのは間違いだったかもしれない。早く天国へ帰ろう。

 

 ・・・・・やるしかない。仕事があるだけまだマシかもしれない。

もっと大変な想いをしている奴なんて世の中には巨万といる。

 

・・・・・そうだ。俺はまだ幸せな方だ。

 そう自分に言い聞かせ歩き続けていたら、天国はもう目の前だった。

明日までの天国だ。

 

俺はどう過ごそうか考えながら、玄関の鍵穴に鍵を入れ、扉を開け、足を踏み入れた。一階の十二畳のリビングには親二人が健康番組を観ている。

しかし、俺は何も言わずに二階の部屋までゆっくり歩いた。部屋に着くと、俺は明かりを点け、ベッドの上に仰向けで寝転んだ。

 

乗った瞬間にベッドが軋むこの音を聞くのも三カ月ぶりだが相変わらず、変わっていない。

このベッドは中学生の時、親に買って貰った十年来の友だ。

 

ふと、頭を後ろに傾けてみた。

俺が高校生の時、進路の事で親と喧嘩して、こいつに八つ当たりして殴ってつけた跡もやはり消えていない。

これを見る度にあの時の事を思い出す。

苦い思い出だ。

今では後悔している。

世間ではこういったのを反抗期に良くみられる若気の至りと言うのか?

だったら、誰にでもある事だから仕方のないと思いたいのだが、やはりこれを見る度に胸が痛い。

しかし、十年来の付き合いのこの愛器を捨てようとは思わない。

捨てたら、俺の今まで歩んだ人生が否定されるような気がするからだ。

 

俺の名前は他人を助ける輔に幸せで幸輔が由来らしい。

俺が生まれてから八年後の誕生日に親から訊いた。

しかし、人生、なかなか名前の通りにはいかない。

ここ最近更にそれを痛切している。

俺は生まれてから、大きな人助けなんてやった事がないし、寧ろ周りから助けられてばかりだ。

最近は情けない事に助けられたいと思っている。

あの地獄で働く猛者達は誰でも思っている事だ。

俺だけが例外ではない。

それが唯一の心の救いだ。

 

また、いつの間にか嘆息をしてしまった俺は意識が戻った。

何分経ったんだ?

 

俺はスマホを見た。二十分も経っていた。

そろそろ風呂に入るか?

足取り重く、一階の風呂場に向かった。

 

あれから二カ月経った。

今も二カ月前と同じベッドの上にいる。

俺は天井を見つめて、この二カ月の間に起こった事を思い返していた。

 

この二カ月間の出来事は一生忘れる事はないだろう。

 

様々な事があり過ぎて、心身共に疲れ果ててしまった。

 

しかし初めて、他人を助けたと思う。

そして、あの感触と緊張は一生忘れる事は出来ないであろう。

右手を見ると突然、震え出す。

心臓の鼓動が伝わって来る。血液が沸騰する。

制御出来ない。

恋とはそういうものなのか。

 

壁掛け時計を見た。

好きなテレビ番組が始まるまで後、ニ時間もあった。

それまで暇だ。

何かしようにも特別にする事もない。

 

そう憂いた俺はまた、この二か月間の軌跡を自然と思い出していた。

気付いていた時にはテレビ番組がとっくに始まっていた。

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