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メモリーズ ~第五章 快楽~


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第五章 快楽

 

キッチンの床に無造作に置いてあるスーパーの袋からカップ麺を一つ取り出した。

蓋を開け、かやくとスープを取り出し、キッチンの上に置いた。

夕食は外食にしようと思っていたが、早くアパートへ帰りたかった。

久しぶりの再会に興奮を抑えきれない。

 

まさか、もう一度彼女に会えるなんて。

今、彼女は何をやっているのだろう?

今日の恰好からして営業か?

だとしたら、どこの会社に?

頭の中はその事しか考えられない。

夕食なんてカップ麺で充分だ。

俺はやかんに水道水を入れ、それをガスコンロの上に置き、スイッチを強火に回した。

 

中学時代、彼女との思い出にこんな事があった。

十一年前、中学に入学した俺はバスケ部に入った。

俺は学校には飽き飽きしていた。

毎日、同じ事の繰り返し、糞喰らえだった。

つまらない授業、自己顕示欲剥き出しの騒がしいクラスメイト、命令口調のウザい教師。

家から学校へ向かうあの道も嫌いだった。

昔から顔見知りの近所のおばさんから制服姿を見られるのが嫌だったからだ。

しかし、バスケ部の先輩も同級生も体育会系ではなかった。

唯一学校での憩いの場だった。

 

入学してから数カ月経ったある日の練習の日。

体育館で偶々、吹奏楽のマーチングの練習とバスケ部が重なったのだ。

こんな事今まで一度もなかったので珍しいと思った。

その時だった。

ふと、練習の合間に隣を見てみると、ネット越しで一生懸命にトランペットを吹きながら、歩いている彼女の姿を見てしまった。

一目惚れだった。

それまでまともな恋などした事がなかった。

外見から溢れ出す彼女の気韻な立ち振る舞い、清爽な雰囲気、懸命な姿が魅了させた。

その日の練習は、身が入らなかった。

それから気になって彼女の学年、クラスを調べた。

同じ学年だった。

名前は織村加奈というのも判った。

それ以来、学校で彼女を観られる事が俺の心を和ませて、緊張させた。

嫌だった学校が楽しみになってしまった。

しかし、彼女を狙っていたのは俺だけではなかった。

彼女の事が好きだったのは俺が知っている限り、他に二人はいた。

恐らく、実際にはもっといただろう。

何をとってもパーフェクトだった。

それ程、彼女の美しい顔立ち、明るい性格、清爽なオーラは思春期の男達を虜にしていた。

俺は中学の時所謂、学年の中心的グループには属していなかった。

だから、当然、彼女みたいな学年の中心的人物には声を掛けても良い存在ではなかった。

人気の男に譲らなければならなかった。

しかし当時、中学生だ。

自分の本能のまま生きたい年頃だ。

欲を自分で抑制出来る程、心が出来上がっていなかった。

同じクラスになりたかった。

何か彼女と喋るきっかけが欲しかった。

彼女と知り合いになりたかった。

しかし、彼女の姿を遠くから見る事はあっても、それ以上の事はなかった。

 

それから二年が過ぎた。

しかし、残りの二度のチャンスも駄目で、三年間で同じクラスになった事は一度もなかった。

彼女に気持ちを伝えられないまま三年生を迎えてしまった。

一年生や二年生の時と比べ、多少は周りに自分の意見や欲を発言出来るようになっていたが、どこかに「俺なんかが・・・・・」という気持ちがまだあった。

しかし、結局はそんな事は言い訳で、荒肝と勇気がなかっただけだ。

 

そんな俺にもある時チャンスが回って来た。

あの時の事は今でも鮮明に覚えている。

三年生だった俺は最後の大会に向けて、練習に一生懸命励んでいた。

レギュラーではなかったが、最後までチャンスを待って、必死に練習した。

しかし、ユニフォームは貰えたが、その頑張りも虚しく結局試合には出られなかった。

その最後の試合の二週間前のある日の休日の事だった。

その日、両親が偶々用事で出掛けていたので、俺は昼食を買いに近くのコンビニまで行った。

入店してから暫く、適当に弁当を選んでいたら、後ろで扉が開く効果音が鳴った。

何となくその方を振り返った。

・・・彼女だった。

いきなりの天使の登場に動揺した。

暫く、今日みたいに呆気に取られてしまった。

しかし、これは絶好のチャンスだと思った。

いきなりの訪れたチャンスを逃してはいけないと思った。

こんなチャンスもう二度とないかもしれないと思った。

しかし、体は固まっていた。

暫く動けなかった。

何とか、無理矢理体を動かした。

後はほんの少しの勇気で声が掛けられる気がした。

 

しかし、勇気より緊張の方が勝っていた俺はドリンクを選んでいた彼女を五秒程後ろから見つめ、何も言わずに会計を済まし、ゆっくり店を出た。

店の外から彼女の事を一瞬見てしまった。

未練たらたらの自分が情けないと思った。

帰りの道中は後悔ばかりしていた。

何故、俺は声を掛けられなかったのか?

今でもあの時買った弁当とその値段を覚えている。

新作の唐揚げ弁当で税込みで四百九十七円だった。

忘れたくても忘れられない苦い記憶だ。

 

あの当時、彼女の夢を良くみていた。

夢の中では一回だけ俺と彼女は付き合っていた。

理想の恋人同士だった。

しかし、夢から覚めたら、当然そんな事実はなく、いつも現実を突き付けられる憂鬱の朝であった。

もう一度同じあの夢がみたいといつも思っていた。

あの時、「あの、もしかして同じ学年の織村さんですか?」のその一言を掛けるだけで残りの中学生活、いやもしかしたら、卒業後の今でも交流があったのかもしれない。

今までずっと後悔していた。

恐らく、同学年に三百人以上いた俺の中学では俺の顔すら認識していなかっただろう。

目が合った事すらないのだから。

それから、中学を卒業して以来、今日まで会っていなかった。

それが今日、二回目の偶然いや、チャンスが起こった。

あの時、話し掛けたかった。

しかし、出来なかった。

例え、勇気を出して話し掛けていたとしてもやはり「誰ですか?」という反応だっただろう。

そんなのに耐えられる気持ちの準備が出来ていなかった。

 

お湯の沸騰する音が大きくなった。

やかんの蓋が小刻みに震える。

俺は火を止めカップ麺にお湯を注いだ。

 

中学を卒業してからは付き合った女は何人かいたが、本当に好きだったかは疑問だ。

あの当時程の緊張感はなかった。

それが今日再び、あの時の感情が一瞬で蘇った。

この八年間忘れていた気持ちが今、活力を与えている。

古丸海斗の事なんて忘れそうだ。

それ程、彼女は俺を今、夢中にさせている。

彼女のあの頃から変わっていない、上品な立ち振る舞い、清爽な雰囲気が一瞬で再び俺の心を揺さぶった。

それは恐らく、あの頃から抱いていた純粋な恋心であろう。

幾つになっても恋心は持っているものだ。

 

彼女の降りた駅は岩本町駅だ。

あの駅の近くには多くの企業が立ち並んでいる。

彼女はその中のどこかの会社に今、勤めているのか?

だとしたら、その線に乗っていればまた会える可能性はなくはない。

 

目を瞑った。

・・・・・現在の彼女の事がもっと知りたい。

今、恋人はいるのか?

どんな仕事をしているのか?

どこに住んでいるのか?

全てが気になって堪らない。

たった一日で十一年分の想いが蘇った。

 

目を開け、ふと時計を見た。

カップ麺に湯を注いでから八分経っていた。

俺は蓋を完全に開け、カップ麺を急いで啜った。

案の定、麺が伸びていた。

素早くカップ麺を完食した後、腑抜けた表情で浴槽にお湯を入れ、溜まったら浴槽に入った。

風呂から出たら直ぐに歯を磨き、二十四時にベッドに横たわった。

 

全然寝付けなかった。

体は疲れているのに、なかなか寝付けない。

頭が痛い。

早く寝たいのに、脳が言う事を訊いてくれない。

まだずっと今日の事を考えていろとでも言っているのか?

 

考え事をして、いつの間にか寝てしまっていたという作戦を執った。

無理矢理目を瞑った。

暫く、何を考えようか迷ったが良いアイデアが思い付かない。

結局は彼女の事になってしまう。

これでは暫くの間は寝付けられないだろうとはもう判っている。

別事にしなければ。

 

色々考えた挙句、俺は今月のアポ数の目標ペースを考える事にした。

嫌な事だが、彼女の事よりは寝付けそうな考え事だと思う。

 

暫く、時間が経った。

しかし、結局それだけでは寝られなかった。

原因は山野、武藤、佐々木の三害トリオだ。

なかなか眠れない俺はふと、壁掛け時計を見てしまった。

もう、一時を回っていた。

時間が過ぎるのが早い。

最低でも六時間は寝たいが、もう叶いそうにもない。

他事を考えるか?

なかなか寝付けない状態の時に何も考えずに、いつの間にか寝てしまっても時間が経つのが早く感じるだけで、その効果は今までに一度もなく、気付いたら、三時間経っていた何てざらだ。

仕方なく、他にアイデアがなかったので再び彼女の事を考える事を決めた。

 

今、脳内は中学の時の思い出の続きが流れている。

実はまだ、コンビニでの偶然の遭遇程ではないが、彼女との思い出はあった。

それは三年生の冬休み明けの一月の事だった。

高校受験も近づき、俺は最後の追い込みに必死だった。

当時の成績はせいぜい良いとこ中の上。

しかし、それでも都立の中レベルの高校は狙っていた。

その追い込みの御蔭で後に見事に希望の高校に入る事が出来たのだが、その前の私立の出願の際こんな事があった。

俺が受験したある滑り止めの私立高校の出願の際、その高校を受ける全ての同じ中学の者達の願書を俺は纏めて出さなくてはならない役割になってしまった。

いざその高校の事務に行き、全員の願書の入った封筒を開けてみたら、そこには彼女の願書があった。

一瞬、固まった。

一瞬で頭の中に描いた。

高校も一緒に生活出来るかと。

その滑り止めの私立高校には勿論受かった。

しかし、第一志望の都立高校も受かり、俺はそっちの高校を選んだ。

彼女がその私立高校に受かっていたかは判らないが、結局、都立高校に行ってしまったらしい。

しかし、もしかしたら、俺と同じ高校へ行きたいと向こうにも気があるのではないかとちょっと嬉しかった。

彼女がもしその私立高校へ入学していたら、俺は第一希望の都立高校ではなくその滑り止めの私立高校に入学していたかもしれない。

今、考えるとそんな事で進路を決めるのは下らない。

勿論、妄想も。

その程度で俺が好きだった筈ではない。

なんせ、名前も顔も恐らくは知られていないのだから。

しかし、そう根拠のない妄想が中学生には誰にでもあるのだ。

自分に都合が良い事は全てプラス思考したがる年頃だ。

 

随分時間が経った気がした。

今、何時知りたい。

 

再び壁掛け時計を見た。

残念な事に二時を過ぎていた。

今度は事件の事を考えて、いつの間にか寝てしまっていた作戦に出た。

目を瞑り、あの古丸海斗の苦しんでいた姿を思い出した。

嫌な思い出だ。

思い出したくもない事を思い出してしまった。

さっきからなかなか俺の脳は言う事を聞いてくれないのだ。

そのせいで更に目が覚めたような気がした。

またしても作戦は失敗だった。

 

ベッドから天井を見た。

変わらぬ暗闇だ。

天井の凹凸の模様も動かないままだ。

頭がスッキリしていて、脳が正常な状態だと判る。

 

暫くして、また時計を見た。

もう三時を過ぎていた。

本当にこういう時間が経つのが早い。

今はもう何も考えていない。

せめて三時間は寝たい。

このまま普通に寝てしまいたい。

しかし、脳はこれでも言う事を聞いてくれなかった。

 

また、随分時間が経った気がした。

時計を見た。

 

それがもう習慣になっている。

案の定、四時を過ぎていた。

もう二時間で良い。

少しでも寝たい。

しかし、それとは裏腹に頭がすっきりしている。

 

諦めた俺はもう一時間程経っているだろうと思った瞬間に再び、時計を見る事にした。

四時五十七分だった。

三分の誤差があった。

しかし、そんな事もうどうでも良い。

もうどうする事も出来ないのだ。

せめてもののお願いだ。

もう一時間、いや三十分でも良い。

脳よ。

眠りの世界に誘ってくれ。

しかし、その願いは虚しく、誘いは遂に来なかった。

それからずっと時計を見つめていた。

六時になった所で俺は今日の睡眠を諦めた。

 

結局、一睡も出来なかった。

今、寝たら暫く起きられないだろう。

もう起きるしかない。

今日は苦しい闘いになりそうだ。

 

俺は仕方なく、ベッドから立ち上がりトイレに行き、洗面台で顔を洗い、冷蔵庫の中から賞味期限二日前のヨーグルトを取り出しゆっくり食べた。

そして、クローゼットから取り出したスーツに着替え、洗面台に行き髭を剃り、歯を裏側まで隅々、丁寧に磨き、営業マンとして出掛ける準備をした。

しかし、それだけでは準備不足だと思い、通勤途中にコンビニに寄り、刺激が強いタブレットを買い、直ぐに二粒口にした。

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