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メモリーズ ~第六章 不調~


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第六章 不調

 

彼女との再会から三日経った。

その間、俺の睡眠状態は決して良いものではなかった。

三日間の合計睡眠時間は俺の普段の一日の平均睡眠時間と同じだった。

それでも今日もあの会社に行かなくてはならないと思うと、いつも以上に憂鬱になる。

しかし、今の俺にとって、それ以上に突然現れた彼女の事で頭が一杯になってしまう。

その活力が今、俺を支えている。

 

今日も朝早く起きた。

折角だから早く会社に行こうと思った。

現在時刻七時三分時点で俺は森下駅にいた。

それから十五分後に会社へ着いた。

俺は社員証をカードリーダーに翳し、オフィスに入った。

 

・・・・・一番乗りだ。

誰もまだいない。

俺は部屋の明かりと換気扇のスイッチをオンにし、立ち止まり周りを再び見渡した。

・・・・・聞こえて来る音は換気扇の音だけだ。

いつもの罵声はなかった。

静かだ。

違和感があったがこのいつも味わえない違った空気感が案外良かった。

 

俺は自分の椅子に座り、コンビニで買って来たカツサンドの袋を開け、早速一口齧った。

机にパンのカスが落ちる。

少し、高揚感や優越感がある。

早く出社するのも悪くないと思った。

 

それから少し時間が経って、俺はふと思った。

俺以外誰もいない、今なら、普段出来ない事が出るのではないかと。

こんな滅多にない機会だ。

やろう。

しかし、何をしよう?

どうせなら、先輩や上司、特に佐々木へ少しばかりの抵抗がしたい。

あまり、大規模な事は流石にまずい。

ちょっとした事で良い。何かないものなのか?

・・・・・そうだ。

部長しか座れないあの椅子に座ってみるのはどうだ?

これなら、痕跡もなく悪事が働けられる。

我ながらナイスアイデアだ。

 

そう決めた俺は早速、自分の席を立ち、ゴミ箱に食べ終わったカツサンドの袋を捨て、佐々木の椅子に座ってみた。

案の定、居心地が良かった。

肘置きもちゃんとある。

左右に揺らしても椅子がぶれない。

今度は調子に乗って、足を組んでみた。

 

この歳でここに座るのも悪くない。

出世した気分だ。

ここから見渡した景色も初めてだ。

こうなったら、山野や武藤に対しても何か仕返しをしたい。

・・・・・そうだ。

良い事を思い付いた。

 

その案はここから「おい、山野!後、武藤!ちょっと来い」と大きな声で呼んでみる事だった。

実際にやってみた。

俺は自分の事を少し嗤ってしまった。

しかし、仕返しは大成功である。

普段、溜まったストレスが一気に発散された気がした。

 

・・・・・もう悪事はこの辺にしておこう。

そろそろ、早い奴は来る頃だ。

 

俺はもう直ぐ他の社員達が出社する事を察し、自分の席に戻った。

 

「あれ、お前一番乗り?」

 

案の定、十分後に間野が入社して来た。

こいつは意外と恪勤な社員で会社では有名だ。

一年来の付き合いの奴はいつも俺が会社に来る時間が遅い方だと知っている。

 

「ああ、そうだよ」

「めっずらしい。雨でも降るんじゃないか?」

「まぁ、俺だって偶には真面目になりたい時もあるさ」

「まぁ、これから今日みたいに早く来る事だな」

「そうだな」

 

間野の言う事も一理ある。

実際に誰もいないオフィスは面白かった。

また、早く起きたら、一番に来る決心をした。

 

そして暫くし、社員全員が出社した。

今日も相変わらずあのダサい挨拶を終え、俺はディスクに着いた。

今日は外回りの営業はなく、ずっと主婦らに媚びたり、お願いしたりの一日になりそうだった。

 

「もしもし、お忙しい所申し訳ありません。内田様の御自宅のお電話番号でお間違いないでしょうか?・・・・・はい私、ダイス・コミュニケーションズの茂木と言う者です。現在、御契約中のインターネット通信の見直しを御検討して頂きたいと思い、この度、内田様にお電話させて頂きました。・・・・・如何でしょうか?我が社の料金プランは大変お安くなっていまして、ネット回線の繋がり易さも他社と比べて良く、通信速度も大変、お速くなっています。・・・・・そうですか。ではまた機会が御座いましたら、ご検討の方宜しくお願いします。はい、失礼致します」

 

声にいつもの張りがない。

失敗するだろうという事は自分でも話している途中から分かっていた。

朝のあのストレス発散で俺の気持ちは変わると思っていたが、彼女の事で今も胸が一杯だ。

仕事から彼女へと気移りする程、彼女は俺にとって本当に影響が大きい存在だと改めて認識した。

 

昼休み休憩。

今日も日課であり、この会社での唯一の愉しみである間野と上司の愚痴のこぼし合いをやっていた。

しかし、彼女の事が気になってしまい、会話がぎこちなくなってしまっている。

 

「お前、今日まだ一件もアポ取っていないよな」

「ああ、残念だけどな」

「折角、朝早く来たのについていないな」

「ああ、けど俺が悪いんだ」

 

アポを取れるか取れないかは確かに運にも左右される。

しかし、今日の結果が出ない原因はそれではなく俺に殆どある。

 

「・・・・・ああそうそう、そう言えば、昨日の辞令で経理課の浅野課長が地方に飛ばされるんだってな」

「へぇー、そうなんだ。でも、あの人とは話した事は一回位しかなかったな」

「噂では会社の経費の事で社長に逆らったとからしい」

「そうなんだ。話した感じだとこの会社ではまともそうだったのに」

「まぁ、この会社の経営方針には誰だって逆らいたくなるわな。それに浅野課長は社長の営業部の経費削減の事で前々から不満に思っていたらからな。下の者達の為に自分の利得を顧みず動く上司の鑑だな」

「そうだな。そんな人が地方に飛ばされるなんて、やっぱりこの会社は狂っているな」

「それだけ、上司の言う事は絶対という事だな」

「逆らえやしないさ」

「俺達も更に一層言動には注意しないとな」

「そうだな。この喫煙室は外には話声が聞こえないから、良かったな」

「この場以外では上司の愚痴なんて、言えやしないよ」

「・・・・・そうだな」

「・・・・・何だ、お前最近はやけに乗り気ではないな。元気がないのか?」

 間野にも見抜かれた。

「いや、そんな事はないよ」

「まぁ、けどこんな会社にいれば元気がなくなるのは当然だよな」

「ははははは」

 

間野が自虐を言って、俺を和まそうとしてくれる。

俺の笑いは決して、愛想笑いではなかった。

こいつのこういう所が好きだ。

 

「まぁ、何かあったら、相談しろよな」

「ああ、サンキューな」

 

そう礼を言って、俺達はオフィスに戻った。

やはり、間野はこの会社で唯一、本音が話せる相手だ。

これからも大切にしようと再認した。

 

午後の闘いが始まった。

しかし、昼休みの間野との会話があっても、俺の気分は変わらなかった。

最近の好調から古丸海斗と彼女によって、不調に変わってしまった。

いや、この原因は彼女だけだ。

仕事まで影響が出る程、彼女は俺の中で今でも偉大な存在なのである。

そして山野の言う通り、恋とはそういうものなのか?

しかし、俺はどんな状況でも働かなければならない。

俺は頭を軽き叩き、電話を掛けた。

 

「もしもし、お忙しい所申し訳ありません。高橋様の御自宅のお電話番号でお間違いないでしょうか?・・・・・はい私、ダイス・コミュニケーションズの茂木と言う者です。現在、御契約中のインターネット通信の見直しを御検討して頂きたいと思い、この度、高橋様にお電話させて頂きました。・・・・・ええ・・・・・そうですか。ではまた機会が御座いましたら、ご検討の方宜しくお願いします。はい、失礼致します」

なかなか上手く行かない俺は頭を掻いた。気を取り直して、目を瞑った。その後、また電話を何回も掛けたが、立て続けに失敗に終わってしまった。

「茂木君、まだ今日一件もアポ取れていないんだってね」

 

山野がいつもと同じ時間帯に話し掛けて来た。

揚げ足取りか。

本当に性格の悪い奴だ。

 

「ええ、恥ずかしながらそうなんです」

 

愛想笑いをするのも面倒臭い。

 

「君が恥ずかしいのはどうでも良いけど、これは仕事なの。分かる?君も最近いろいろ変な事に巻き込まれて、大変だと思うのは僕だって分かるけどそんな事、仕事には関係ないよ。仕事だけはしっかりやろうね」

 

お前、前に同じ事を言っただろ。

そんな事、こっちだって何回も言われなくても分かっている。

付け加えると、お前のせいでこっちは更に負担になっているんだよ。

 

「ええ、その通りですね」

「まぁ、僕に相談出来る事があれば、何でも相談してね」

 

相談する事はお前のその迷惑な巡回だよ。

 

「ええ、有り難う御座います」

 

これからも、こいつの前で良い人を演じなければならないと思うと、正直気が滅入る。

一体、いつになったらこの迷惑行為が終わるのか?

 

それから、一時間程経った。

しかし、今日の成績は相変わらずである。

俺は今度こそ、頭を完全に切り変えて電話を掛けようと意気込んだが、それが直ぐにまた元に戻ってしまった。

また、嫌な奴がやって来てしまったからだ。

 

「茂木、お前今日まだ一件もアポ取っていないな。どんな理由があろうが絶対ノルマはクリアして貰うからな」

 

佐々木もいつもと変わらず、怒鳴って俺を責めた。

 

ああ、その通りだよ。

けど、お前の椅子は今朝、俺が頂いたからな。

 

「はい、すみません。何としても取ります」

「当り前だ」

「はい」

「だったら、直ぐに掛けろ」

 

そう言って、佐々木は自分のディスクに戻って行った。

同じセリフだった。

ノルマを達成出来なそうな者には大抵それを言う。

これが部下に支持されない理由の一つだ。

しかし、自分でも今日はまずいと思っていた。

十七時を過ぎた時点でまだゼロだ。

こんなの右も左も分からなかった入社したての頃以来だ。

アポを取るには兎に角、相手に興味を持たせる話題を提供する事が必要だという事が入社して直ぐに気付いた。

例えば、低価格やキャンペーンや繋がり易さとかだ。

それに加えて、話し手の巧みな話術が必要である。

相手を洗脳して、アポに持ち込むテクニックもあるが、他人相手になかなかそうは上手く行かない。

それよりも話し方が一番重要だ。

敬語や滑舌は勿論の事、こちらの声の張り具合でその人の人格が電話の向こうからでも意外と伝わるらしい。

そうして、相手は信頼出来る会社かどうか判断するらしい。

成績が良い奴は大抵それが出来ている。

普段の俺はそれが出来ている自信はあるが、今日の俺は全く駄目だ。

何とかしなければ、今日はギリギリまで残業しなければならない。

疲労を回復したい俺にとってそれは更に体に追い打ちを掛ける事になってしまう。

それだけは避けたい。

俺は深呼吸して、次の家庭に電話を掛けた。

 

「もしもし、お忙しい所申し訳ありません。櫻井様の御自宅のお電話番号でお間違いないでしょうか?・・・・・はい私、ダイス・コミュニケーションズの茂木と言う者です。現在、御契約中のインターネット通信の見直しを御検討して頂きたいと思い、この度、櫻井様にお電話させて頂きました。・・・・・如何でしょうか?我が社の料金プランは大変お安くなっていまして、ネット回線の繋がり易さも他社と比べて良く、通信速度も大変、お速くなっています。そして、なんと只今、キャンペーン中でして一カ月分の費用が半額となっています。・・・・・・・・・・ええ、はい、そうです。・・・・・・・・・・ええ、有り難う御座います」

 

やっと、引っ掛かった。

どうやら、今契約している会社の契約がもう直ぐ終わるから、見直しをしたいらしく、一度、他社のプラン内容を知りたいらしい。

絶対成功したい俺は話の勢いを増した。

 

「ええ、・・・・・はい、通信速度はですね。当社の通信速度は最大速度100Mbpsと大変、お速くなっています。・・・・・如何でしょうか?・・・・・はい、そうです。・・・・・ええ、・・・・・そうです。・・・・・・・・・・はい、そうです。有り難う御座います。・・・・・現在、櫻井様の御自宅が使用している回線が光回線でしたら当社と同じとなりますので、屋外の回線工事は必要ありませんが、屋内工事の方はプロバイダが違いますので、必要となります。・・・・・ええ、現在、櫻井様が御契約しています他社のプロバイダが当社と同じ回線を使用しているのならば屋外工事は必要ありません。・・・・・その会社でしたら、当社と回線が同じですので、回線工事は必要ありません。・・・・・ええ、回線工事とは屋外から御自宅に当社のケーブルを引き込む工事の事です。・・・・・屋内工事とはまず、保安器と呼ばれるケーブルを雷等の異常電圧や異常電流から保護する為の機械を設置して頂き、ONUと呼ばれる光信号を電気信号に変換する機械を設置させて頂き、それに屋外から引き込んだケーブルを繋ぐ工事の事です。・・・・・ええ、それから、ONUと端末をイーサネットでLAN接続して、インターネットが使用出来る事になります。・・・・・ええ、只今挙がった無線LANの事ですが、申し訳御座いませんが、それはこちらでは用意致しかねますので御自宅の近くの家電量販店やネットショッピング等で櫻井様の方で無線LANルーターを個人的に購入して頂き、接続して頂く形となります。・・・・・ええ、申し訳御座いませんが、そういった形となります。・・・・・ええ、接続方法はですね、ONUのLANの差し込み口にLANケーブルを差して頂き、LANケーブルのもう一方をご購入して頂いた無線LANルーターに差し込んで、後は端末、例えばパソコンの方で設定をすれば、接続出来ます。・・・・・ええ、工事の費用の方はですね、櫻井様の御自宅を拝見させて頂けないと正確な見積もりは出せませんが、工事は屋内工事だけですので基本料は一万四千三百円です。・・・・・ええ、有り難う御座います。では通信内容と料金プランと契約書の方を持参し、後日担当の者がお伺いさせて頂きますので、櫻井様の御自宅の御住所の方を教えて頂けないでしょうか?・・・・・はい、神奈川県平塚市・・・・・三丁目十三番地で御座いますね。承知致しました。有り難う御座います。では何日の何時頃、御都合が宜しいでしょうか?・・・・・ええ、・・・・・三日の十三時で御座いますね。では三日の十三時頃に担当の者が櫻井様の御自宅にお伺いさせて頂きますので、今暫くお待ち下さい。・・・・・では、失礼致します」

 

本日一件目だ。

この調子なら、良い流れが作れそうだ。

俺は頬を叩き、勢いに乗って、次の電話を掛けた。

 

「もしもし、お忙しい所申し訳ありません。加藤様の御自宅のお電話番号でお間違いないでしょうか?・・・・・はい私、ダイス・コミュニケーションズの茂木と言う者です。現在、御契約中のインターネット通信の見直しを御検討して頂きたいと思い、この度、加藤様にお電話させて頂きました。・・・・・ええ、そうですか。ではまた、機会が御座いましたら、ご検討の方宜しくお願いします。はい、失礼致します」

 

二連続とは行かなかった。まぁ、仕方ない。

俺は落胆せずに、再び電話を掛けた。

 

「もしもし、お忙しい所申し訳ありません。伊藤様の御自宅のお電話番号でお間違いないでしょうか?・・・・・はい私、ダイス・コミュニケーションズの茂木と言う者です。現在、御契約中のインターネット通信の見直しを御検討して頂きたいと思い、この度、伊藤様にお電話させて頂きました。・・・・・」

 

結局、今日の成績は二人だった。

勿論、定時に帰れた訳ではなく、残業しての結果だ。

しかし仕方がなかった。

今は仕事所ではないのが心情だ。

会社には申し訳ないとも思っている。

今の俺は戦力にならない。

 

二十一時、俺は借金三で今日の闘いを終え、会社を出た。

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