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メモリーズ ~第十章 発覚~


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第十章 発覚

 

彼女の会社を訪れてから、三日経った。

その間の仕事は相変わらず、凝滞だった。

いつも以上に山野にしつこくちょっかいを出され、武藤に嫌みを言われ、佐々木に怒鳴られた。

しかし、今の俺にとってそれを耐えるのはそう難しい事ではなかった。

マルワフーズと明南大学の喚問で何か掴めそうな気がした。

あれから、手に入れた客観的事実から何度も考えた。

今、俺の中で出した一つの仮説がある。

 

まず、彼女があのネズミを殺害した理由は毒の効果の実験材料に使いたかったに間違いない。

これは確定だ。

普通に考えれば毒の効力を試したかったからだろう。

そして、あの殺害された当日、彼女と古丸海斗と繋がっていた事も間違いない。

毒によって殺害された古丸海斗は毒を持っていた彼女と繋がっていた。

よって、そのネズミの実験の前に彼女は古丸海斗を殺害したのだ。

これも恐らく、間違いない。

しかし、以前から二人の接点はなかった。

ここから、推測すると古丸海斗は偶々あの日初めて、彼女に接触して殺害された。

こう考えるしかない。

恐らく、その経緯は偶々その周辺を歩いていた古丸海斗が彼女を見付け、一目で彼女を気に入りナンパしたのだろう。

気持ちは解る。

 

彼女が古丸海斗を殺害した理由は恐らくは突発的なものだったであろう。

例えば、古丸海斗の誘いがしつこかったとかだ。

何もその証拠も証言もないが、古丸海斗の性分が発覚した今、彼女には古丸海斗を殺害する理由があった可能性が出て来た事は間違いない。

彼女は古丸海斗に弱みを握られ、彼を殺害しなければならなかったのか?

それとも、とっさに殺意が芽生えて殺害したのか?

もし前者ならば、彼女が毒を持っている事が彼に判ってしまったといった理由か?

しかし、その弱みを握られたのだったら、自分が殺害されるという雰囲気が少なからず感じる筈ではないか?

何故ならば、今目の前にいる相手は毒を持っていて、自分がそれを知ってしまって、脅しているからだ。

そんな状況だったら、寧ろ相手の事が怖い筈だ。

彼女が接触しなければ古丸海斗の缶コーヒーに毒は入れられない。

つまり、缶コーヒーの中に毒を入れるには隙が生じなければならない。

そして、もしその行為に気づいたら、古丸海斗がそれを飲む筈がない。

よって、後者の方が可能性としては高いだろう。

だとしたら、・・・・・

 

ふと、我に返り思った。

俺は何故こんな事をしているのか?

俺は何故、こんな事を推測しているのか?

何故、俺がここまでしなければならないのか?

自分でも何が突き動かすのか分からない。

しかし、真実を突き止められるのは現状、俺しかいない事もまた事実。

これは俺に与えられた義挙なのか?

 

中学の頃を思い出した。

あの頃は純粋に彼女の事が好きだった。

だから、彼女の事だったら、どんな事でも出来るような気がした。

しかし、今はそれだけとは違う気がする。

一人の人間として犯罪者を突き止めなければならないという正義感が纏っている?

それとも一般人が犯罪を暴くという優越感に浸りたいからなのか?

どちらにせよ、俺がやる事は変わらない。

 

・・・・・また、あの会社に行こう。

知りたいのは真砂以外の者からの彼女についての意見だ。

あの真砂という男についても知りたい。

それが判ればまた真実を解き明かす事に前進するかもしれない。

そう決めた俺はベッドに横たわった。

 

翌日、再び彼女の戦場であるマルワフーズ本社を訪ねた。

今日は土曜日だ。

しかし、この会社は通常通り営業していた。

エレベーターを使い、五階まで上がり、自動ドアを抜け、ノンストップで受付まで辿り着いた。

 

「あのー、すみません」

 

俺は早速、受付の女に声を掛けた。

 

「ああ、この前は」

 

前と同じ女だ。話が早くて済む。

 

「ええ」

「また何か御用ですか?」

「はい、また少しお訊きしたい事がありまして、お伺いさせて頂きました」

「ええ、結構ですよ。しかし、今、真砂は出張中でして・・・・・」

 

そうなのか。

しかし、今日は彼には用がない。

・・・・・いや、寧ろその方が都合が良かった。

 

「いえ、今日は真砂さんは結構です。その代わり、織村さんと真砂さんの日頃からの関係を知っている方と少しお話させて頂きたいので、そういった方を呼んで頂けないでしょうか?」

「承知致しました。少々、お待ち下さい」

 

受付の女がそう言うと、立ち上がり社内に消えて行った。

俺はその場に立ち尽くしその男の登場を待った。

暫くしたら受付の女が戻って来た。

 

「一人、それに該当する人物がいましたので、仕事が一段落しましたら、ここに来るように申し付けました。それまであちらにお掛けになってお待ち下さい」

 

女の掌の先には前回と同じ部屋だった。

そう言われた俺は自動ドアを抜け、部屋で待機した。

今日も相変わらず周りは騒がしかった。

さっきからずっと電話音や罵声が鳴り止まない。

 

待っているとさっきの受付の女がお茶を出してくれた。

俺は礼を言い、差し出されたお茶一口飲み、視線を一直線にした。

 

「初めまして、小島と申します」

「勤務時間にわざわざ、申し訳ありません。ある事件の事で警察に捜査協力しています茂木と申します」

 

第一印象は折角、わざわざ仕事中抜け出して来て貰って申し訳ないが、どことなく覇気がなく、気弱そうだ。

魚の死んだ目をしていて、顔がげっそりと痩せ細っている。

 

「早速ですが、貴方に単刀直入にお訊きしたい事があります。こちらの真砂というエリアマネージャーと織村さんの事です」

「真砂さんと織村さんの事ですか?」

「ええ、そうです。普段の二人はどういった関係なんですか?何か特別な関係などあるのでしょうか?」

 

こういった者の場合、こっちから強引にどんどん話を引き出さなくては。

 

「真砂さんと織村さんとの関係ですか?」

「ええ、そうです。正直に話して頂けませんか?事件解決の為と思って」

「・・・・・ええ、本当は話したくありませんが仕方ありません。お話しします」

「有り難う御座います」

「但し、今から話す事は周りには決して言い触らさないで下さいね。あくまで貴方が抱えている事件解決の為だと思って話します」

「分かりました。お約束します」

 

小島というこの男の顔が本当に真剣な表情に変わったのが悟れた。

その条件を飲まなければ話してはくれなさそうだ。

 

「・・・・・正直、申しにくい事なのですが、ここだけの話、実は織村さんは普段から、真砂さんからパワハラやセクハラ紛いな事をされているのです。普段の彼女は真面目で仕事熱心な模範的な社員なのですが、真砂さんの標的にされていて、この所、彼女はずっとその事で悩んでいる様子です」

 

・・・・・ずっと知りたかった。

俺の知らなかったあれからの彼女の人生が明らかとなったが、清楚な女性のイメージから掛け離れ過ぎていて、彼女の普段の日常が想像出来ない。

いや、寧ろそういう女だからこそ標的にされるのか?

 

「ぐっ、具体的に言うと?」

 

感情を抑えて訊いた。

 

「そうですね。例えば、彼女に対してだけ、人が余っている時にさえ必要以上の無理な業務を課せられたり、彼女に対して女性として中傷する言動などがあります。実は大変言いにくい事なんですが、ここだけの話、この会社はブラック企業なのです。殆どの下の社員が定時に帰れる事は皆無と言って良い程なく、終電ギリギリの夜中まで会社に残って、仕事をしている事が毎日続いています。ああ、申し訳ありません。関係のない話までして、愚痴ってしまい・・・・・」

 

何となく俺の会社と似ていてそんな感じがしたので特に驚く事はなかったが、彼女の事となれば話は別だ。

しかし、ここは冷静でなければならないし、彼女とは関係のない話でも耳を傾けるべきだ。

 

「いえ、そうですか。色々と大変ですね」

 

“色々と大変ですね“の前に“お互い”を付けたかったが、関係のない話が長くなると思い、私情を抑え止めたのは今、良い判断だと思っている。

 

「特にあの真砂さんは陰湿で普段から殆どの自分より立場が下の社員から妬まれていまして、この会社を象徴している人物なのです。特に、織村さんに対して、普段から執拗に酷い事をしているのです。織村さんは負けずに毎日頑張っているのですが、本音は相当なストレスと悩みを抱えているのだろうと思います。私も助けたいという気持ちがあるのですが、現実、真砂さんに意見を唱えようものなら、不当に地方に飛ばされたり、最悪の場合解雇も有り得る会社なのです。そういった人達をこの数年で何人も見て来たので、私にも生活がありますので、申し訳ないと思うのですが、あまり彼女の事を守って上げられないのです。あっ、すみません。関係のない話を」

「あっ、いえ」

 

痛い程共感出来た。

俺と同じ悩みを抱えている人が目の前にいた。

暫く、言葉を発せなくなってしまった。

 

意識が正常に戻った。

それだったら、彼女は真砂に対して、殺意を持っていても可笑しくない。

殺意を持っているから毒も持っていた。

もう、そう考えるべきだ。

 

「あのー、貴方が警察に捜査している事件って何ですか?そして、織村さんはその事件の事で疑われているのでしょうか?」

「先月、東京で起きた毒物で死亡した事件です。実は私、その被害者の第一発見者でして、それで警察に協力しているのです。そして、織村さんは事件の重要参考人を探す為の重要な証言者なのです」

 

彼と個人的な仲間意識が芽生えた気がした。

彼には心置きなく話そう。

しかし、彼女の事を事件の容疑者だという事は伏せて。

 

「そうだったのですか」

 

俺が彼女を疑っている事を出来るならこの会社には知られたくない。

最悪でも、織村被害者と真砂だけには。

 

「あのー、所で今日真砂さんはどちらへ出張なのですか?」

 

何となくそれが気になっていた。

事件には関係のない事かもしれないが、この際だから訊ける事は何でも訊いておこう。

 

「広島ですよ」

「しかし、何故広島まで・・・・・ああ、すみません。差し支えなければで構いませんので」

「いえ、構いませんよ。新商品の開発の為です」

「居酒屋のですか?」

「ええ、今度の新商品の料理は広島をテーマにした物なので、商品開発部の者と一緒に昨日から行っています」

「そうだったのですか?ちなみに帰って来るのは何時頃でしょうか?」

「明日の午後です」

「そうですか」

「その後、直ぐに試食会を行うのです」

「そうですか」

 

真砂セクハラエリアマネージャーは今、広島へ出張中で、帰って来るのは明日・・・・・よし、後はあれさえ訊き出せば。

 

「あのー、最後に一つ訊いても宜しいでしょうか?」

「はい、どうぞ」

「最近の織村さんの会社での行動について何か変わった点等はありましたでしょうか?」

「そうですね。・・・・・正直に言いたくないのですが、ありました」

「何とか話して頂けないでしょうか?」

「・・・・・分かりました」

「有り難う御座います」

「確か、一ヵ月程前だった筈です。いつもと同じように私が朝、出社した時、織村さんが何故か調理室にいて何かやっていました。珍しく、彼女が朝一番に会社に来ていたので、可笑しいとは思いました。普段そこまで出社するのが早くなく、寧ろ遅い方のなので。そして、窓の外から暫くその様子を見ていると、織村さんは何かのビンを鞄の中から取り出していました。それははっきりとこの目で確認出来ました。そして、周りを確認して、私の存在に気付いた織村さんは鞄の中にそれを慌ててしまいました。その時、彼女も驚いていたのですが、私も驚いてしまい軽く挨拶をして、見て見ぬ振りをしてしまったのですが」

 

これで彼女が真砂に殺意を持っていた事は確定だ。

その時、彼女は真砂を殺害しようと思った。

しかし、恐らくこの小島という社員にそれをしようとしていた姿を見られてしまって、止めたんだ。

 

「そうですか。・・・・・その日、真砂さんの身に何かなかったですか?」

「いえ、特には・・・・・」

「そすですか。それは正確にいつの事だったのですか覚えていますか?」

「えーと確か、四月二十三日の朝七時半頃だったと思います」

 

四月二十三日。

確か、俺が古丸海斗を発見した日と同じ日だ。

 

「勇気を出して、話して頂いて有り難う御座いました。これで私は失礼します」

「いえ、お役に立てれば幸いです」

 

よし、これで訊きたい事は全て訊いた。

 

「・・・・・ああ、そう言えば」

 

俺が立ち上がり帰ろうとした時、彼が呼び止めた。

 

「何でしょうか?」

 

そう言って俺は腰をまた、椅子に掛けた。

 

「ええ、ちなみなのですが、織村さんが不審な行動をしたあの日も確か、先月の新商品の試食会の日でした」

 

だとしたら、彼女はそれを利用して真砂を殺害しようとしたんだ。

 

「それは本当ですか?」

「ええ、本当ですよ」

「ちなみにその試食会というのはどういった流れで行われるのでしょうか?」

「簡単ですよ。まず、その新商品の候補を色々と作り、上の者が試食して、OKが出たら、商品化出来ます」

「それの試食品を作るのは誰ですか?」

 

・・・・・しまった。

「商品開発部の人間です」

「すみません、当り前でしたね」

「いえ」

 

俺は笑いながら、謝った。

しかし、そうだとしたら、あの日、彼女のやろうとしていた行為を他の者がやった事にする事は出来るのか。

しかし、この場合まだ二つの条件がいるのだが。

 

「すみません、先程最後にと言ったのですが、やっぱりまだ幾つか質問しても宜しいでしょうか?」

「ええ、良いですよ」

 

良い人で良かった。

 

「有り難う御座います」

「で、その質問とは?」

「新商品候補をまず初めに試食をするのはもしかして真砂さんでしょうか?」

「ええ、その通りです。試食をまず初めにするのは、そのエリアのエリアマネージャーが試食します。つまり、真砂エリアマネージャーです」

 

一つ目の条件は問題なしだ。

 

「そんなに食べたら、お腹が一杯になりますね」

「いえ、新商品の試食はいつも昼前に調理室で行われます。真砂エリアマネージャーは会社に来てから、それが初めて食べ物を口にする事になりますから、昼食はいつも抜いている筈です」

 

二つ目の条件も問題なしだ。

これであれは物理的には可能という事になる。

しかし、まだあの懸念は消えていない。

 

「そうですか。それはそうですよね。ちなみに次の試食はいつ行われるのですか?」

「新商品の試食会は毎月、第三月曜日が定期的に行われています。ですから、次行われるのは明後日です」

「そうですか、また、急ですね」

「はい、取り敢えず、その土地の良い物があれば、直ぐに開発してみるが弊社のモットーですから。勿論、それが直ぐに商品になるかどうかは別問題で、時間を掛けて改良と試食を繰り返して、出来ていくものなのですが」

「だから、居酒屋の食べ物にはあまり、外れがないのですね」

「・・・・・そうですね」

「真砂さんも日曜の午後に出張から帰って来て、直ぐ次の日に試食会ですか。真砂さんの御家族も忙しくて、さぞかし寂しい想いをしているのでしょうね」

「いえ、真砂エリアマネージャーは最近、離婚したかなんかで今は確か家族はいなかったと思います」

「・・・・・ええ?そっ、そうなんですか」

 

思いがけない返答だった。

 

「ええ、確か」

「それはいつの事だったのですか?」

「えーと、確か、二週間程前に」

「最近ですね」

「ええ、そうですね」

 

もしかして、彼女はあの時それだったから、あれを止めたのか?

これはもしかしたら、思わぬ収穫ではないか。

 

「ちなみに子供は?」

「確かいなかった筈です」

「そうですか」

 

やはり、そうだった。・・・・・という事は今の彼女はあの感情を持っていても可笑しくないのか。

 

「あのー、私そろそろ戻らなくてはいけない時間になって来たのですが、他にお訊きしたい事はありますか?」

「ああ、すみません。もう大丈夫です。お忙しい中、お時間取らせてしまい、申し訳ありませんでした。本当に色々と有り難う御座いました」

「いえ、お役に立てれば幸いです」

 

俺はそう礼を言って、会社を後にした。

険しい表情を抑えるのに必死だった。

何ていう事だ。彼女がパワハラを受けていたなんて。

無理な業務を課せられていたなんて。俺と同じではないか。

そして、古丸海斗が殺害された日と彼女が珍しく、朝一番に会社に来て、何かをしていた真砂を殺害する為に毒をどこかに入れようとしていたのだ。

 

俺は眉間に皺を寄せながら、暫く歩き、近くのオープンカフェに入った。

土曜日の昼にもかかわらず、客は疎らだった。

店内には曲名は知らなかったらどこか聞いた事あるクラシックが流れている。

悪くない。この前行った喫茶店と同じく高評価だ。

入口の前に棒立ちしていた俺は店員に指示された席に着き、直ぐにホットコーヒーを注文した。

 

彼女には真砂を恨む理由がある。

俺だって、彼女の立場なら恨んでいるだろう。

それは殺したい程かもしれない。

いや、毒の実験をした彼女は真砂に殺意を持っていると考えるべきだ。

信じたくはない。

しかし、そう考えると辻褄が全て合う事になってしまう。

今まで起こった事が矛盾なく存在するには彼女に真砂に対して殺意がなくてはならない。

だとしたら、その日、彼女は毒を使って、会社で真砂を殺害しようとしていたのか?

しかし、会社で殺害となると、容疑が同じ会社内にいた自分に向けられてしまう。

そんな事はしない筈だ。

という事は会社で殺害は出来ない。

何か別の方法で会社ではなく、社外で死ぬように考えた筈だ。

いや、待てよ。

自分が毒を仕込んだという事が周りにばれなければそれでも良いか。

例えば、同じ会社の特定の人物に罪をなすりつける事が出来たのならば、それも良いという事になる。

とすればその対象は商品開発部の人間か。

彼女が新商品の材料の中に毒を入れさえすれば、疑いの目は開発部の人間に向けられるという事になる。

しかし、例え計画がそうだったとしても彼女はあの日はそれを止めた。

それは恐らく、小島という社員に毒を仕込む所を見られそうになったからだ。

そして、もう一つの理由は恐らく・・・・・

 

そう考えていると店員がホットコーヒーを持って来てくれた。

俺は砂糖とミルクを入れ、スプーンで掻き回し一口啜った。

 

しかし、あの小島という社員の証言によれば、その試食日、つまりあの彼女の不審な行動の日と古丸海斗の死亡した日は重なっている。

これは偶然ではない。

その彼女が会社で入れなかった毒を使って、古丸海斗をあの日の夜、あの公園で殺害したんだ。

これなら、話が上手く纏まる。

 

彼女は日頃から、真砂にパワハラやセクハラを受けている。

彼女は古丸海斗が殺害された日に珍しく会社に来て、調理室で何かに入れようとしていた。

しかし、小島がそれを見てしまって、それ気づいた彼女は入れるのを止めた。

それは恐らく、真砂に使う筈だった毒だろう。

一番初めに新商品を試食するのは真砂。

真砂の何か食べる時に必ず指を舐める癖。

真砂は今、嫁がいないし、子供も元々いない。

そして、あの時は嫁がいた。

だとするとどうなるんだ・・・・・。

 

次を考えようとした時突然、俺の腹から音が鳴った。

腹が減って来てしまった。

そう言えば、今日まだ昼飯を食べてはいなかった。

推理に夢中ですっかり忘れてしまっていた。

何か注文をしようか。

腹が減ってはそっちが気になって考え事も凝滞してしまう。

俺はテーブルの隅に置いてあったメニューを手にした。

 

「あの、すみません」

注文の品を決めた俺は呼び出しボタンがテーブルになかったので手を挙げて、店員を呼んだ。

それに気付いてくれた店員が直ぐに近寄ってくれた。

 

「はい」

「追加注文良いでしょうか?」

「はい、有り難う御座います」

「カツサンド一つ下さい」

「はい、カツサンドですね。かしこまりました」

 

注文票に書き終わったら、店員は去って行った。

確かに真砂を殺害する当日に試食品の食材に毒を混入すれば、最初に試食をするのは真砂であるから、殺害する事は可能だ。

・・・・・いや、可能ではない。

もし、開発部の人間が真砂に料理を出す前に味見や試食をしてしまったら、開発部の人間が真っ先に死んでしまう事になる。

他人に料理を出す前にそれをするのは当り前だから、この案は没だ。

勿論、開発部が商品候補を作った後に毒を入れるという手もあるが、料理を作ったら、直ぐに真砂の元へ運ばれると思うし、その間に彼女が商品候補に毒を入れる隙も時間もない筈だ。

また、振り出しだ。仕方ない。

 

「お待たせ致しました」

 

そう落胆しているとお待ちかねのカツサンドがやって来た。

店員がテーブルの上に商品と伝票を置き、去って行った。

 

俺は運ばれて来た物体を凝視した。

中央にでかでかとカツサンドが乗っており、その周りは大量のフライドポテトで囲まれている。

俺は早速、カツサンドを手に取り一口食べ、フライドポテトを三本手に取り、口に運んだ。

そして、テーブルの隅に置いてあったナプキンの束から一枚取り、手に付いた油と塩を拭き取った。

俺は再び、フライドポテトを三本手に取り、口にした。

 

うん?

・・・・・まさか・・・・・

自分の行動に鳥肌が立った。

急に閃いた。

もしかしたら、彼女の毒を塗ろうとした場所はここではないか。

そうすれば、あの懸念が消えて犯人をあやふやにする事が可能だという事になる。

全てが完璧だ。

よし、そうと決まれば今から、もう一回、マルワフーズに行って、あの事を訊かなくては。

それが決まれば確定だ。

・・・・・ああ、連絡先を訊いとけば良かった。

・・・・・いや、待てよ。

真砂にはあれがあるからその必要はないではない。

そうだ、その必要はない。

勿論、明後日の物も同じくだ。

 

頭の中で一つ一つのピースが集まり、一つのパズルになって行く。

俺の推理はもう直ぐ完成しそうな勢いだった。

後は彼女が古丸海斗を殺害した方法と証拠だけで全てのピースが出揃う。

よし、明日一回、あの古丸海斗が殺害された森下公園に行ってみよう。

そうしたら、全てが解るかも知れない。

 

俺はお手柄だったカツサンドとフライドポテトを平らげ、コーヒーと水を飲み干した。

そして、伝票を持ってレジに行き、会計を済ましたカフェを出た。

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