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メモリーズ ~第一章 日常 その1~


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第一章 日常 その1

 

電話の音が鳴りやまない。

五コール以内に出なければならない。

手当たり次第、電話を掛けなくてはならない。

今日もいつものように罵倒が飛んでいる。

ここでの挨拶は「オッス」だ。

毎朝、会社に来たら、まず朝礼で一人一人声出しをしなければならない。

まさに時代遅れの体育会系だ。

しかし、これがいつもの俺の会社の日常である。

ノルマを達成しなければ、また上司からどやされる。

もう罵倒される事は慣れてしまったが、いい加減溜まりに溜まったストレスが満タンになり爆発しそうだ。 

 

俺は電話番号を確認し、電話を取り、ダイヤルを押した。

 

・・・・・二十秒経った。

出ない。

恐らく、フリーダイヤルで向こうにばれたのであろう。

俺は諦めて電話を置いた。

 

しかし、少しホッとしたのもまた事実。

出られたら出られたで、電話の向こうのババアや親父から鬱陶しがられる。

子供が出ても敬語を使わなくてはならない。

通信会社はブラックが多いという事は学生時代に聞いていた。

 

しかし、ここしにか受からなかった。

他を探そうと思えば探せたが、やっとの事で決まった当時の俺にはそんな気力にはなかった。

あの当時、就職活動で行き詰っていた俺にようやくこの会社から救いの手が出た。

俺は嬉しかったと同時に安堵した。

これでやっと苦しみから解放されると。

しかし、いざ入社してみると想像以上にこの温床は厳しかった。

 

今日まで毎日必死だった。

必死に仕事を覚え、客に頭を下げ、上司からの怒鳴られる毎日だった。

 

いや、今日からもだ。元気だけが取り柄だった俺がストレスで鬱状態になり掛けてしまった。

その危機は何とか乗り越えたが、今ではすっかり学生時代の元気の良さは影を潜め、帰順してしまった。

 

社会人になる前、最近の新卒の離職率についての予備知識はあった。

何故、直ぐそんなに多くの者が辞めるんだと思っていた。

そういう奴らは只の根性無しだと思っていた。

 

しかし、今は考えが変わった。

そういった現実は本人だけの責任ではなく、会社の責任が殆どだと。あの時、見下した者達に申し訳ないと今では思っている。

 

入社してから一年経った。

本当に我慢した。

苦しかった。

同期入社の奴は半分以上、一年も持たずに辞めて行った。

俺はまだ続いている。

いや、しがみ付いている。

しかし、これからも手を放さずに続けて行くのかは疑問だ。

 

しかし今、辞める訳にはいかない。

今はまだ、耐えるしかない。

こんな環境にいるのを結局は全て自分の責任だ。

他人のせいには出来ない。

自分のせいだ。

あの時、心の中で自分に対してこれで良いんだと妥協してしまったんだ。

今、悔恨している自分がまた情けないと思った。

 

「茂木、今日はちゃんとノルマ達成出来るまで帰さないからな」

 俺の元へやって来たこの男にそう言われた。

入社して一年間殆ど毎日言われ続けられているセリフだ。

 

「はっ、はい」

 今は従うしかない。

部長のこの佐々木に。

 

「だったら、早く掛けろ」

「はっ、はい」

 

強烈な威光を放たれた俺は電話番号を確認し押した。

電話の発信音が変わった。

もう直ぐ繋がる。

・・・・・出た。

女の声だ。声のトーンからして主婦か?

「もしもし、お忙しい所申し訳ありません。山田様の御自宅のお電話番号でお間違いないでしょうか?・・・・・はい私、ダイス・コミュニケーションズの茂木と言う者です。現在、御契約中のインターネット通信の見直しを御検討して頂きたいと思い、この度、山田様にお電話させて頂きました。・・・・・」

 

出た。一番多い謳い文句。家は結構です。

「そうですか。ではまた機会が御座いましたら、ご検討の方宜しくお願いします。・・・・・はい、失礼致します」

 

そう言って、俺は電話を切った。

「ちっ」

それを見た直後、佐々木が盛大に舌打ちをした。

「兎に角、沢山契約取れ。ノルマを大きく超えても構わん。さっさと次掛けろ」

 

そう言って、佐々木は去って行った。

俺はその後ろ姿を睨んだ。

 

それが出来たら、こんな苦労は無いんだ。

だったら、自分が契約取ってみろ。

 

しかし、俺は感情を抑えて言われた通り、また電話を掛ける家庭を探した。

確かに何も事情を知らない向こうにとってはこんな電話、迷惑なだけだろう。

俺が何も知らない向こうの立場だったら、そう思うだろう。

しかし、こっちの立場の人間はそんな事お構いなしに、心を鬼にして闘わなくてはならない。

そうしなければ、この先この会社にいられなくなる可能性だってある。

 

「もしもし、お忙しい所申し訳ありません。福田様の御自宅のお電話番号でお間違いないでしょうか?・・・・・はい私、ダイス・コミュニケーションズの・・・・・」

 

俺は毎日一体、何をやっているんだろう。

これが俺のやりたかった仕事なのか?

・・・・・いや、違う。

そうではない。

取り敢えず、一人で食っていける為にあの時どこでも良いから就職しなければならなかった。

周りがそういう風潮だったのだ。

それが今でも惰性と義務で続いているだけだ。

 

ダイス・コミュニケーションズという社名の由来は創立者の梅本が社名が決まらなかった時に、たまたま置いてあったサイコロを振って、思いついたらしい。

実にくだらない。

しかし、もう直ぐでこの会社は二十周年らしい。

こんな会社でも潰れずに意外と長く続いているのは歴代の社員の頑張りだと常日頃から思っている事だ。

 

俺はオフィス内の時計を見た。

今ので出社してから五回目だ。

これがもう習慣になっている。

 

後、少しで正午だ。

今日も時間が早く経つのを願った俺は午前の部、ラスト一回の電話を掛けた。

しかし、それも結局失敗に終わってしまった。

 

そして、正午。

やっと午前の闘いが終わった。

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